ラトビアでは、自然が人々の暮らしや文化、そしてアイデンティティに深く根付いています。そのつながりは、個人の名前にも色濃く表れています。自然現象や植物、動物、花などにちなんだ名前が多く、男女問わず自然に由来する名前が親しまれています。たとえば、クルゼメ地方を流れるヴェンタ川にちなんだヴェンタ(女性)やヴェンツ(男性)といった名前があります。
ラトビアには「名前の日」という特別な日を祝う文化があり、専用のカレンダーには、自然からインスピレーションを受けた素敵な名前がたくさん登場します。たとえば、ディルメ(深さ)、ジール(深淵)、メートラ(ミント)、メルドラ(ヨシ)、ラサ(露)、スニエジェ(雪)、ズィエマ(冬)などです。
昔から人気がある名前として、「夜明け」を意味するアウスマ(女性)やアウスミス(男性)は、朝、新たな始まり、日の出を象徴しますし、「東」を意味するアウストラ(女性)やアウストルムス(男性)は、朝の光にちなんだ名前です。
また、「イエヴァ」という女性名はラトビアでもとても一般的で、エゾノウワミズザクラに由来しています。この木は豊穣や生命の誕生を象徴し、「イエヴァ」と聞けば、ラトビア人は春に咲くその花と、よく同時に訪れる遅霜を思い浮かべます。
ラトビアの地域によっても人気の名前はさまざま。たとえばヴィズメ地方では、セリガ(海の深層)、パールスラ(雪の結晶)、リエスマ(炎)、サルマ(霜)といった、自然を感じさせる名前が好まれています。
ミッドサマーの時期に咲くハーブの名前も人気で、グンデガ(ミヤマキンポウゲ)、マダラ(キバナカワラマツバ)、マゴネ(ポピー)などがあります。花の名前も定番で、ローゼ(バラ)、ヴィオリーテ(スミレ)、リリヤ(ユリ)など、響きも華やかです。
最近では、再び自然に由来する名前が注目されており、ジャスミナ(ジャスミン)やメリサ(メリッサ)といった香り高い花にちなんだ名前が人気を集めています。
男性の名前にも自然が息づいています。アルニス(ヘラジカ)、アトヴァルス(渦巻き)、ジンターズ(アンバー)、ズィエドニス(春潮、春の美や新しい始まりの象徴)、ヴィルニス(波)などがその一例です。
もちろん、ラトビアには性格を表すもの、家族の伝統から受け継いだもの、外国語から来た名前などもあります。でも、自然由来の名前は今もラトビア人の心に強く根付いていて、その人気は自然とともに生きるという価値観を表しています。これらの名前は、ただ音が美しいだけでなく、深い意味と自然との絆を感じさせてくれる特別な存在なのです。